戦後から続き、長く休業した末に復活した小さな銭湯。
今年春、その銭湯で『ふろタイル100人展』という取り組みをやった。
世のクリエイター達に「あなたのイラストや写真を、浴場のタイルに 想い想いに展示してみませんか」と、ネットや店内で作品募集したのだ。
ビックリした。
ある日を境に、ネットを通じて次々と申込みがきたのだ。
『ふろタイル100人展』の当日、小さな風呂屋の浴場は100人のクリエイター作品に彩られ、いつにも増して明るく、お風呂客が楽しめるものとなった。
これすごいと思う。何がすごいかというと、
どちらかと言うと脇役だった無数のタイルが、多彩な価値を放ち、さらにお風呂客はお湯につかりながら100人のクリエイター作品を見て大喜びだった。
近隣はもちろん、遠い場所からもネットを通じ多くのクリエイター作品が小さな浴場に集まった。
工事や設備投資を伴うリニューアルではなく、風呂屋の現場スタッフたちが手作りで風呂屋の価値を深めることができた(かかった費用は約5万円)。
今回は参加費無料の企画だったが、作品を応募してくれた方々から「有料でもよいのでタイルをずっと使わせてもらいたい」と言ってもらえた。つまり仕組化できれば小さな風呂屋の小さなタイルが、収益を生む可能性が出てきた。
などなど、数えればまだまだたくさんある。
見落とせないのは、風呂屋のタイルは別に珍しいものでなく、何十年前から当たり前のようにあったもの。そのタイルが今の時代に眩しいほどの価値を持ったこと。
うまくいけば、小さな風呂屋はこれで未来を見続ける(売上が確保され、人を雇ったり設備を直したりできる)ことができるだろう。
誤解を恐れず言えば「壁とかタイルが、風呂屋の未来を開く」とも言えるのだ
新しい価値とか、価値を進化させるのは、もちろん大事。
ただ浴場のタイルのように元々あった価値、休眠してしまってた価値を再起動させるのは、それ以上に大事なんじゃないかと思う。
小さな商売の風呂屋にも、サウナや絶景露天風呂、冷たい水風呂だけでなく、元々そこにあった壁画やタイル、鏡といった奥深い価値が、動かなくなったエンジンのように普通に今も転がってる。
エンジンをもう一回点火する。それも以前よりちょっと深堀りした価値をのっけて。
暖簾(のれん)や鏡、桶やタイルの価値が息を吹き返して、お客さんを喜ばせ、売上に貢献し、風呂業界全体を元気づける日は近いと感じている。
おしまい
★★ 極小老舗(ごくしょう・しにせ)商売とは ★★
50年以上、100年以上の老舗の商売。探してみると結構ある。それも夫婦とか家族でやってるような小さな商売。駄菓子屋さん、八百屋さん、 豆腐屋さん、まちの食堂さん・・・。銭湯もそのひとつ。これを極小老舗商売と呼ぶ。世界中の極小で老舗な商売が元気を取り戻せば、日本や世界にとって良い事いっぱいなのだ。【 真神 友太郎(まがみ ゆうたろう)】