
銭湯の『お股スパーン!』発祥伝説
かつて、廃業寸前の「富士見湯」という小さな銭湯が東京・昭島(あきしま)の地にあった
いつの頃かその銭湯に風呂客に幸福をもたらすという妖怪がすむようになった
爺さん姿のこの妖怪には、風呂客がふと気づくと隣の湯にチョコンと浸かり、目をそらすといつの間にか消えている、遠くで「お股スパーン」のタオルの音だけが響いてた…という妙な話が良く聞かれたものだ
不思議なことに妖怪を見た風呂客のまわりで「敵の銃弾がそれて命拾いした」、「生き別れた娘に会えた」という様な話が次々と聞かれるようになった
幻の妖怪の噂はやがて広がり、幸せの神通力にあやかろうと多くの風呂客がその銭湯に来るようになった
人々は幻の妖怪を「富士見湯おじぃ」と呼ぶことにした
小さな銭湯は廃業寸前だったが、富士見湯おじぃのおかげか息を吹き返し、その後も風呂商売はたいへんうまくいった
小さな銭湯の親父は思った
この銭湯に富士見湯おじぃがいる限り、たくさんの風呂客が幸せをさずかり、また風呂客も希望をもった人生が送れる・・・。そして自分の商売もうまくいく…と
銭湯の親父にとって富士見湯おじぃは居なくてはならない妖怪だったし、居なくなってしまっては困る妖怪でもあった
いなくなれば風呂客たちの幸せと希望が消えてしまうかもしれない。ひょっとしたら風呂客が減り、廃業寸前の銭湯に逆戻りするかもしれない。そう思ったものだった
恐れていたことはおこった…
ある時から富士見湯おじぃは忽然と姿を消した
一説によると「新しいボイラーの音がイヤで西の方に行ってしまった」とも言われた。しかし本当の理由はわからない。
風呂客たちは浴場で毎日探したが「お股スパーン!」の響きはおろか、姿すら見つけることはできなかった
風呂客たちは彼の「お股スパーン!」の音を懐かしがった
「お股スパーン!」を真似ることで富士見湯おじぃに再び会えるかもと思い、自ら「お股スパーン!」する者まで現れ、いつしか「お股スパーン!」は人々や世間に定着していったという・・・
・・・これははるか昔、富士見湯の先々々代から聞いた、「お股スパーン!」発祥にまつわるお話。今ではタオルで「お股スパーン!」をやる人はめっきり減り、見かけることは殆どない
だがもし富士見湯で「お股スパーン!」の音を聞いた気がしたら、それは富士見湯おじぃが帰ってきて久しぶりに「お股スパーン!」をやっている響きに間違いないだろう・・・
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ちなみにその後、小さな銭湯「富士見湯」の風呂客はやはり減ってしまった
しかし富士見湯の親父は毎日必死で頑張り、風呂客が喜ぶアイデアを次々と実行し、東京・昭島(あきしま)の地で今もなんとか湯を沸かし続けているという
銭湯の「お股スパーン!」発祥伝説
おしまい